SS一覧

2025年3月14日の投稿1件]

*伏虎:ホワイトデーのお話。

 ホワイトデー。バレンタインのお返しをする日、というのが世間一般の認識だろう。
 虎杖悠仁は、その日もまた、二月十四日バレンタインデーのときと同様に悩んでいた。

(バレンタインのお返し……でチョコ贈るのは、やり過ぎかな……)

 バレンタインの日、伏黒からチョコレートを貰ったのは事実だ。しかし、その日、自分も彼に手作りのガトーショコラを贈った。
 奇しくも交換という形になったため、またホワイトデーにチョコレートを贈るのは、鬱陶しいだろうか、と考えてしまう。

(でも、今回は小さいチョコだし、これくらいなら)

 自室にて、一口サイズのチョコレートが数個入った小箱を見つめる彼は、うーんと腕を組んだ。
 二月十四日のお返し、というよりも、あの日互いに贈ったものをきっかけに甘い時間を過ごせたことが嬉しくて、幸せで、ワンチャンホワイトデーも同じような時間を過ごす口実になれば、という下心の方が大きいため、後ろめたさがある。

(チョコレート、一緒に食べん? って誘うくらいなら)

 違和感ないだろうか。
 そう思う虎杖は、小箱を店で貰った紙袋に入れ、部屋を出るため踵を返した。そのとき、部屋の扉がノックされて、「はーい」と返事をする。
 鍵をかけていない扉が開かれて、顔を覗かせたのは伏黒だった。丁度いい、と思う虎杖は、「伏黒、どしたん?」と言いつつ彼に近づく。
 そして。

「虎杖、今時間あるか?」

 彼が部屋に入ってきた瞬間、ふわりと香ったのは、チョコレートの匂いだった。
 窺うような、期待するような色合いをした伏黒の瞳を見て、あ、と虎杖は微かに瞠目する。
 チョコレートの香りを纏った彼、店で買ってきた紙袋を手にした自分。
 ──もしかして。
 期待にごくんと喉を鳴らしてしまった虎杖は、「うん」と僅かに緊張した面持ちで頷いた。
 もしかして、ワンチャンを狙ったのは自分だけではないのかもしれなくて。もしかして、バレンタインデーのときと立場が逆になっているのかもしれなくて。
 期待が溢れた虎杖が、堪らない想いに唇を引き結び、伏黒に抱きつく。

「っ!」
「時間、ある。たくさんある」

 彼の肩に顔を埋め、伏黒の匂いとチョコレートの香りが混ざりあった甘い香を吸い込みながら言えば、抱きとめた伏黒の手が虎杖の手に触れた。
 紙袋の持ち手を握っていることに気づいたのだろう。一拍遅れて、「よかった」と答える伏黒が、彼の後頭部に触れた。くしゃくしゃと撫でられた虎杖が顔を上げれば、ちゅ、と柔らかな唇が重なる。

「……ふしぐろ」
「今日も準備してんのか?」
「うん」

 心配も不安も必要なかった。期待を膨らませていて良かったのだ。
 だって。──もう、甘い時間は始まっていた。畳む

伏虎

  • ハッシュタグは見つかりませんでした。(または、まだ集計されていません。)

Powered by てがろぐ Ver 4.0.0.