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*いおりく:いいいおりくの日。「一生」の話。

 一生、という言葉は、甘い響きを持っていて、確実なものに思えて、永遠を約束されるもののように感じた。一方で、それはひどく曖昧で、不安定で不確定なものだと知っている。
 人の身体も、心も、周りの環境も、変わりゆくもので、ずっと同じなんてことはない。
 だから、死ぬまで一生IDOLiSH7! と思っていても、心のどこかで「一生なんて保証されないのに」と思う自分もいて、そんなことを考えてしまう自分が嫌になるときもあって、それでも永遠を信じ切れずにいた。
 ──一織のことが好きだ。その想いは、きっと“一生”消えないもので、胸の奥が甘い熱を持つ恋情を超えるものは、“一生”ない気がした。同じ想いを返してくれた一織との関係は、“一生”変わらないのだろうと思った。
 そうやって、簡単に永久に変わらぬ気持ちを確信してしまう。いつ想いが移り変わるともわからないのに。
 いつ、一織から向けられている想いが変わってしまうかもわからないのに。
 それ故に。

「一生涯あなたを愛します」
「……!」

 見透かされたと思った陸は、隣に腰掛けている一織にぎょっと目を向けた。リビングにあるソファにて、寛いでいたときのことだ。雑誌に視線を落としていた一織が、ビクリと反応した陸に顔を向ける。

「どうしたんですか?」
「いや……お前こそどうしたんだよ急に……」

 唐突な愛の言葉に慄けば、「特集が組まれていたんですよ」と紙面を見せられた。女性向け月刊雑誌には、いい夫婦の日として長年互いを愛し合ってきた夫婦のエピソードが多数掲載されている。
 いくつかのエピソードに目を通した陸が、「……そっか、こうやって一生愛し合ってる人もいるんだなぁ」と納得したように呟けば、「は?」と訝しげな声が聞こえた。やけに剣呑とした疑問符だったため、「えっ」と思わず声をあげれば、じっと顔を覗き込まれる。

「……余計なこと考えていたでしょう」
「かっ……考えてないし」

 やっぱり、見透かされているのかもしれない。そんなことを思いつつ、たじろぐ陸は、「……一生、って、難しいことだと思ったんだよ」と呟いた。
 芸能人の離婚のニュースや、グループ解散。確固たるものだと思っていたものは、いとも容易く失われてしまう。一生という願いを諦めたくないと思っても、自分が願っているだけでは叶わない。愛する相手が、メンバーが、皆が同じ想いを抱いていなければ、綻んでいく。
 時折ぼんやり考えていたことを伝えれば、嘆息した一織に軽く額を小突かれた。

「あぅっ」
「あなたは、すぐ考え込んで不安になりますね」
「なっ……」

 呆れたように言われて、反論しようと口を開くが、ふと見えた彼の表情が優しいもので気を削がれた陸は、言葉を発する前に口を閉じる。

「確かに、一生という言葉は、軽々しく使うものじゃないかもしれません。ただ、過度に不安に思うこともないと思いますよ」
「……どうして?」
「今この瞬間七瀬さんのことが好きで、大切だという気持ちは、一生のものです。何年先の未来でどうなっているかは、確かに保証できないものかもしれませんが、今この瞬間七瀬さんを好いているという事実は永劫変わりません」
「それは……」

 言葉遊びのようなものでは?
 そう思いつつも、一織の言葉に安堵している自分がいた。何事についても、彼の言葉を聞いていると、安心して、大丈夫だという気持ちになるのだ。
 狙って言っているわけではないだろうが、いつも陸の心を掬ってくれる一織の言葉が好きだった。
 考えていたことが、杞憂に思えて、肩の力が抜ける。ふふ、と笑う陸は、「一織、オレのこと好きだって言うとき、照れなくなったよね」と弄るように彼の反応を窺った。「良い変化でしょう」とさらりと言われて、「もー」と生意気な年下の恋人に唇を尖らせる。
 付き合い始めてから、三年。一生変わらないものはないだろうけれど、その瞬間瞬間に感じたものは、確かに永遠なのだろう。例えそれが変わりゆくとしても、それが良いものであればいいな、と、そう思う陸は、こてんと一織の肩にもたれかかる。

「“一生”こんな時間が続けばいいな」

 穏やかで愛しい時間を願えば、「続きますよ」と相槌がある。脆いと知っているからこそ、大事に想いを抱えて、繋いでいくのだ。
 一瞬の煌めきが、永久に続くように。

「……うん」

 肩から伝わってくる一織のぬくもりを噛み締めて小さく頷く陸は、体温に身を委ねるように瞼を閉じるのだった。畳む

いおりく

*いおりく:花吐き病のひとこま。

 咳込む音がして、発作かと思い、陸の背中に手を添える。七瀬さん、と声をかけようとして、一織は目を見開いた。
 ひらり、と白い花弁が陸の手からこぼれ落ちる。
 ──花吐き病。

「ぁ……一織……」

 告白されて、両想いだったのだとわかって、恋人同士になった。
 触れ合って、キスをして、愛情を重ねていた。
 花吐き病は、片想いを拗らせているとかかる病だ。両想いであれば、発症することはない。
 それなのに。

「っ、けほ」

 ひらひらと舞い落ちる花弁が、重なっていく。
 両想いである。そう思っていた。
 しかし、悟った一織は、ああ、と胸の内で自嘲気味に口の端を上げる。
 両想いでは、なかったのか、と、添えていた陸の背から彼の手が滑り落ちた。畳む

いおりく

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