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カテゴリ「いおりく」に属する投稿5件]

*いおりく:一織の誕生日に陸から贈られたもの(ホームボイスネタバレを含みます)

 ステージの上で、皆に星を降らせる彼が好きだった。世界中の人の視線を浴び、笑って歌うあなたが好きだった。
 誇らしくなる。愛しく思う。自分にとって、大切な存在だと噛み締める。
 ──誰よりもステージ上で輝く七瀬陸のことが、好きだった。
 一方で。

「今日は一織のためだけに歌います!」

 一月二十五日。誕生日に、名指しで限定する言葉を贈られて、目を見開く。
 皆の特別であろう彼に、特別を贈られて、綻びそうになる口元を隠した。
 誰のものにもならないアイドルの七瀬陸を愛しく思うと同時に、“私だけ”の七瀬陸を感じると、優越感と仄かな独占欲が生まれる。甘く、熱くて、鼓動が逸るような感覚が身を焼いた。
 一番の、贈り物。

「……近所迷惑にならない範囲でお願いします」

 そう唇を動かすことで、緩む表情を誤魔化す一織は、「うん」と笑う陸が息を吸う音に耳を傾ける。
 自分だけへ贈られるメロディに微笑む彼は、贅沢な時間に浸るように、歌声を紡ぐ陸を見つめるのだった。畳む

いおりく

*いおりく:スケジュール帳に書かれたマークの意味は。

 年の始めに、「一織! 見て見て、スケジュール帳買った!」と嬉しそうに手帳を見せてきた陸に対し、「ちゃんと最後まで使えるんですか?」と半眼を向けたことを覚えている。
 十二月下旬、特番やら何やら忙しい合間を縫って、年末までに終えられるよう少しずつ掃除を進めていた一織は、リビングのテーブルに置き忘れられている手帳を手に取った。
 陸が、デザインが気に入ったと購入していたスケジュール帳。ここ最近、仕事の予定はマネージャーと連携が取れるようスマートフォンのアプリケーションを利用しているため、紙媒体のスケジュール帳は必須ではなくなっている。一織などは、紙の手帳が馴染むため、未だに自身の予定はスケジュール帳に書き込み管理していたが、同じように手帳を購入した陸に対し、ちゃんと使えるのだろうかと心配になった記憶があった。「ちゃんと使うよ!」と主張していたが、三日坊主になるのではと思いつつ、一年。
 よく使い込まれているわけではないが、新品同様とも言い難い、軽く使われている形跡のある手帳を手にした一織は、何気なく適当なページを開く。陸の手帳を見ることに然程躊躇いがなかったのは、彼との普段の距離感が近いため、つい、という要素が強かった。
 月間の予定表に、仕事の予定が記入されている様子はない。プライベートの予定も入っていなかった。ただ、ハートマークが書き込まれている。数日おきに書かれていたハートが、次第に毎日記入されるようになっており、途中からただのハートだけでなく、大小二つのハートが書かれるようになっていた。

(……何のマークだ……?)

 書き込まれている理由として、予定がある日にマークが付けられている、というのが真っ先に浮かぶが、一織が思いつくどの予定とも合わない。
 掃除の手を止めて、一人首を傾げていると、扉を開けリビングに入ってきた陸が、「ああ!」と声をあげた。大きな声にびくりと身を竦ませるが、「い、一織! 何勝手に見てるの!?」と手帳を奪われて、勝手に見てしまった罪悪感が生まれる。

「あ……すみません、つい」
「つい!?」

 手帳を見られて恥ずかしかったのか、顔を赤くして眉を吊り上げる陸に、「何気なく見てしまいました……すみません」と謝罪を重ねた。むむむ、と反省の色がある一織を見つめた彼は、「……何が書いてあるか、中身見た?」とまだ頬を赤くしたまま尋ねる。

「見ました……けど、ハートマークが書かれていただけでしたよ。ちゃんと使ってはいたんですね」
「う……ちゃんとっていうか……最初は予定書き込んでいこうと思ってたけど、続かなくて……日記……ちょっとした記録に使ってたんだ」
「記録?」

 日々つけられていたマーク。何の記録だろうかと疑問を示せば、手帳を開いた陸が、「……した日にマークつけてた」と小さな声で答えた。
 肝心な箇所が聞こえなくて、「何をした日ですか?」と問いを重ねると、彼は「一織と、ハグ、した日……」ともう一度答える。静かな寮で、小さく告げられた言葉が届いた一織は、想定外の答えにぎょっと瞠目した。

「……一織と付き合い始めて、ハグした日が嬉しくて、その日にハートマークつけるようになって……でも、ハグってわりと毎日するから、途中で一織とキスした日にハートを二つ書くように変えて……それで……」

 ぺら、とページを捲った陸は、十一月のスケジュール表を一織に見せる。きらきらと強調されたハートが書かれている日が、まばらにあった。
 ハグやキスをした日として記載されているマークよりも頻度は少ない。陸が、一織との睦み合いについて手帳に残していたと知り、恥ずかしいやら愛しいやら感情が波打っていた一織は、眉根を寄せてそのマークの意味を考える。
 そして。
 ハグ、キス、ときたらその次に来るのは、という理論的な思考と、日付を見て思い当たる出来事が噛み合った彼は、「っ」と陸に負けず劣らないほど顔を赤くした。
 ──身体を重ねた日。

「な……んでそんなこと手帳に記録してるんですか!」
「だって……! これだけ一織とえ……ち……して、愛し合ったんだって思い返すと幸せな気持ちになるから……! 別にいいだろ誰にもわかんないただのマークなんだから!」
「ちょっと貸してください」
「あっ」

 いつ身体を重ねたのか、残されていると思うと羞恥に顔が火照る一織は、陸の手から手帳をもぎ取る。自分の頭の中で頻度を考えながら毎回行為に及んでいるが、こうして数ヶ月分の記録を見ると、形容し難い感情が湧いた。
 それだけの回数、陸を抱いているのだと思うと、胸の奥が甘い熱を持つ。抱かれた回数を数えて、いつ抱かれたのか手帳を見て思い返す陸がいるのだと思うと、堪らない愛しさが湧き上がった。

「……七瀬さん」
「はい」

 恥ずかしそうに殊勝な返事をする陸に、手帳を返す。
 十二月下旬、今年が終わるまで、まだ少し残っている時期。ハートマークを増やして、スケジュール帳を使ってやるタイミングは、まだ残っているということだ。……それは、自分たち次第だが。

「……スケジュール帳、もう少し使わないと勿体ないでしょう」
「……うん」
「ハートマーク、もう少し増やせるようにしましょう、か」

 手帳を持っている手とは反対の手に触れて、陸の小指に自身の指を引っ掛ける一織は、先程の陸と同じくらいの小さな声でそう伝えた。

「……忙しいけど?」
「支障の出ない範囲で」

 間髪入れずに答えた彼は、陸から目を逸らす。
 仕事に影響が出ないようにするのは当然だが、可愛らしい記録をつけていた陸を愛したい気持ちが増した一織は、普段より語調が強くなってしまったことを自覚し、空咳をして誤魔化した。
 珍しい彼に、目を瞬かせる陸が、「……うん」とほんのりはにかむように笑う。
 そうして、その夜、早速手帳にハートを一つ付け足すことになった彼らは、「来年も手帳買おうかな」「……好きにしたらいいんじゃないですか」と会話を交わすのだった。畳む

いおりく

*イオリク:DiDで歌うリクターの声が耳について離れないイオのワンシーン

「いつでも一緒、すてきな空気、魔法の言葉クリーンエアーマスク~」

 とても、耳につく。伸びやかな歌声も相俟って、抑揚あるメロディーが頭から離れないイオは、ふんふんと楽しそうに歌いながらガスマスクの手入れをしているリクターを見やった。いつでも一緒、という言葉通り、彼はいつもガスマスクを持ち歩いている。
 最初こそ異文化に遭遇した気分で衝撃を受けたが、今ではイオも彼の価値観を受け入れていた。
 しかし──。

(最近は、ガスマスクをつけているところ、あまり見ないな)

 ぼんやりとそう思っていると、こちらを見たリクターと目が合う。にこりと笑う彼に、「ガスマスク、つけないんですか?」と純粋な疑問をぶつければ、リクターは「つけませんよ!」と笑いながら答えた。

「だって、イオと一緒にいるのに」

 軽やかな声が、そう唄う。
 さらりと告げられた言葉に瞠目するイオは、その真意をはかりかねて、「それは、」と曖昧な声音で呟くように言葉を零した。畳む

いおりく

*いおりく:いいいおりくの日。「一生」の話。

 一生、という言葉は、甘い響きを持っていて、確実なものに思えて、永遠を約束されるもののように感じた。一方で、それはひどく曖昧で、不安定で不確定なものだと知っている。
 人の身体も、心も、周りの環境も、変わりゆくもので、ずっと同じなんてことはない。
 だから、死ぬまで一生IDOLiSH7! と思っていても、心のどこかで「一生なんて保証されないのに」と思う自分もいて、そんなことを考えてしまう自分が嫌になるときもあって、それでも永遠を信じ切れずにいた。
 ──一織のことが好きだ。その想いは、きっと“一生”消えないもので、胸の奥が甘い熱を持つ恋情を超えるものは、“一生”ない気がした。同じ想いを返してくれた一織との関係は、“一生”変わらないのだろうと思った。
 そうやって、簡単に永久に変わらぬ気持ちを確信してしまう。いつ想いが移り変わるともわからないのに。
 いつ、一織から向けられている想いが変わってしまうかもわからないのに。
 それ故に。

「一生涯あなたを愛します」
「……!」

 見透かされたと思った陸は、隣に腰掛けている一織にぎょっと目を向けた。リビングにあるソファにて、寛いでいたときのことだ。雑誌に視線を落としていた一織が、ビクリと反応した陸に顔を向ける。

「どうしたんですか?」
「いや……お前こそどうしたんだよ急に……」

 唐突な愛の言葉に慄けば、「特集が組まれていたんですよ」と紙面を見せられた。女性向け月刊雑誌には、いい夫婦の日として長年互いを愛し合ってきた夫婦のエピソードが多数掲載されている。
 いくつかのエピソードに目を通した陸が、「……そっか、こうやって一生愛し合ってる人もいるんだなぁ」と納得したように呟けば、「は?」と訝しげな声が聞こえた。やけに剣呑とした疑問符だったため、「えっ」と思わず声をあげれば、じっと顔を覗き込まれる。

「……余計なこと考えていたでしょう」
「かっ……考えてないし」

 やっぱり、見透かされているのかもしれない。そんなことを思いつつ、たじろぐ陸は、「……一生、って、難しいことだと思ったんだよ」と呟いた。
 芸能人の離婚のニュースや、グループ解散。確固たるものだと思っていたものは、いとも容易く失われてしまう。一生という願いを諦めたくないと思っても、自分が願っているだけでは叶わない。愛する相手が、メンバーが、皆が同じ想いを抱いていなければ、綻んでいく。
 時折ぼんやり考えていたことを伝えれば、嘆息した一織に軽く額を小突かれた。

「あぅっ」
「あなたは、すぐ考え込んで不安になりますね」
「なっ……」

 呆れたように言われて、反論しようと口を開くが、ふと見えた彼の表情が優しいもので気を削がれた陸は、言葉を発する前に口を閉じる。

「確かに、一生という言葉は、軽々しく使うものじゃないかもしれません。ただ、過度に不安に思うこともないと思いますよ」
「……どうして?」
「今この瞬間七瀬さんのことが好きで、大切だという気持ちは、一生のものです。何年先の未来でどうなっているかは、確かに保証できないものかもしれませんが、今この瞬間七瀬さんを好いているという事実は永劫変わりません」
「それは……」

 言葉遊びのようなものでは?
 そう思いつつも、一織の言葉に安堵している自分がいた。何事についても、彼の言葉を聞いていると、安心して、大丈夫だという気持ちになるのだ。
 狙って言っているわけではないだろうが、いつも陸の心を掬ってくれる一織の言葉が好きだった。
 考えていたことが、杞憂に思えて、肩の力が抜ける。ふふ、と笑う陸は、「一織、オレのこと好きだって言うとき、照れなくなったよね」と弄るように彼の反応を窺った。「良い変化でしょう」とさらりと言われて、「もー」と生意気な年下の恋人に唇を尖らせる。
 付き合い始めてから、三年。一生変わらないものはないだろうけれど、その瞬間瞬間に感じたものは、確かに永遠なのだろう。例えそれが変わりゆくとしても、それが良いものであればいいな、と、そう思う陸は、こてんと一織の肩にもたれかかる。

「“一生”こんな時間が続けばいいな」

 穏やかで愛しい時間を願えば、「続きますよ」と相槌がある。脆いと知っているからこそ、大事に想いを抱えて、繋いでいくのだ。
 一瞬の煌めきが、永久に続くように。

「……うん」

 肩から伝わってくる一織のぬくもりを噛み締めて小さく頷く陸は、体温に身を委ねるように瞼を閉じるのだった。畳む

いおりく

*いおりく:花吐き病のひとこま。

 咳込む音がして、発作かと思い、陸の背中に手を添える。七瀬さん、と声をかけようとして、一織は目を見開いた。
 ひらり、と白い花弁が陸の手からこぼれ落ちる。
 ──花吐き病。

「ぁ……一織……」

 告白されて、両想いだったのだとわかって、恋人同士になった。
 触れ合って、キスをして、愛情を重ねていた。
 花吐き病は、片想いを拗らせているとかかる病だ。両想いであれば、発症することはない。
 それなのに。

「っ、けほ」

 ひらひらと舞い落ちる花弁が、重なっていく。
 両想いである。そう思っていた。
 しかし、悟った一織は、ああ、と胸の内で自嘲気味に口の端を上げる。
 両想いでは、なかったのか、と、添えていた陸の背から彼の手が滑り落ちた。畳む

いおりく

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