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2025年1月の投稿2件]

2025年1月25日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

*いおりく:一織の誕生日に陸から贈られたもの(ホームボイスネタバレを含みます)

 ステージの上で、皆に星を降らせる彼が好きだった。世界中の人の視線を浴び、笑って歌うあなたが好きだった。
 誇らしくなる。愛しく思う。自分にとって、大切な存在だと噛み締める。
 ──誰よりもステージ上で輝く七瀬陸のことが、好きだった。
 一方で。

「今日は一織のためだけに歌います!」

 一月二十五日。誕生日に、名指しで限定する言葉を贈られて、目を見開く。
 皆の特別であろう彼に、特別を贈られて、綻びそうになる口元を隠した。
 誰のものにもならないアイドルの七瀬陸を愛しく思うと同時に、“私だけ”の七瀬陸を感じると、優越感と仄かな独占欲が生まれる。甘く、熱くて、鼓動が逸るような感覚が身を焼いた。
 一番の、贈り物。

「……近所迷惑にならない範囲でお願いします」

 そう唇を動かすことで、緩む表情を誤魔化す一織は、「うん」と笑う陸が息を吸う音に耳を傾ける。
 自分だけへ贈られるメロディに微笑む彼は、贅沢な時間に浸るように、歌声を紡ぐ陸を見つめるのだった。畳む

いおりく

2025年1月9日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

*伏虎:決戦後に伏黒の誕生日を祝うお話。

 きっかけは、雑誌で見かけた星座占いの結果を確認してみたかったから、という、随分とくだらないものだった気がする。

「なあ、伏黒って誕生日いつ?」

 軽い気持ちで尋ねれば、「十二月二十二日」と簡潔な答えが返ってきた。クリスマス間近な日付を聞いて、寒い季節に生まれた彼を、彼らしいと感じる。それは虎杖の勝手な感覚だったが、「伏黒冬生まれっぽいもんな」と納得した声をあげれば、「オマエは?」と聞き返された。

「俺? 三月二十日」
「春生まれっぽいな」

 同じ言葉を返されて、笑う。「そう?」と理由を聞いてみたい気持ちを滲ませれば、「……ああ」と一拍間があった後伏黒が頷いた。
 何かちゃんとした理由がありそうで、しかしそれを言わない選択をしたらしい彼にもたれかかれば、「重てぇ」と顔を顰められる。文句を言いながらも、退けとは言わない彼が好きだった。
 伏黒の部屋で、ベッドの上に並んで座り、他愛のないやり取りをする時間。占い結果を見ようと雑誌を捲る虎杖は、穏やかな空間に口元を綻ばせた。

◇◆◇

 ──どうしてこうなったのだろう。どうして? 俺のせいだ。
 俺が。俺のせいで。
 伏黒を助けなきゃ。伏黒を取り戻さなきゃ。
 伏黒が傍にいてくれないと、俺は。

◇◆◇

「悠仁、アラーム鳴ってるよ」

 軽い調子で声をかけられた虎杖は、ハッと我に返ったように目を見開いた。宿儺との戦いを見据えた鍛錬を続ける中、休憩のため道場の隅で瞑目していた彼は、けたたましいアラーム音に気づき、ビクリと身を竦ませる。今更のように反応した虎杖を見て笑う五条が、「何か予定?」と尋ねた。
 ポケットに入れていたスマートフォンを取り出し、鳴り続ける音楽を止めた彼は、「……いや、予定じゃないよ」と答える。
 十二月二十一日、午後六時。アラームの見出しは、「明日伏黒の誕生日!」となっていた。
 人の誕生日などは、わりと覚えている方で、伏黒の誕生日も覚えていたが、万が一にも忘れたくなくて、誕生日を聞いたその日に登録したアラーム。
 彼の誕生日を覚えていた。どうやって祝おうか、プレゼントは何にしようかと考えて、本当ならば、きっと今頃誕生日パーティーの準備に勤しんでいたに違いない。──本当ならば。
 虎杖がアラームを消した際、画面に標題が見えた五条が、上げていた口角を下げる。

「明日は、恵の誕生日か」

 淡々と独り言のように呟く彼に、虎杖は相槌を打つことができなかった。
 明日、祝いたい相手は、ここにはいない。宿儺に乗っ取られている身体は、きっと日々の時間を重ねて誕生日を迎えるのだろうが、沈められている伏黒の魂は、どうなっているのだろう。いや、伏黒の身体だって。宿儺に奪われ、異形を身に宿し、それはきっと……今の伏黒の身体はきっと、純粋な彼自身ではない。
 誕生日おめでとう、生まれてきてくれてありがとうと伝えたいのに、できないことが悔しかった。

「……伏黒を助けなきゃ」

 生きて、生誕を祝えるように、彼を宿儺から救わなければ。誓うように言う虎杖に、目を瞬かせた五条が、ふっと口元に弧を描く。

「そうだね。それで、恵が帰ってきたらお祝いしよう」
「……?」
「生まれてきてくれてありがとう、生きててくれてありがとうって、伝えればいい」

 きょとんと首を傾げる虎杖の頭に手を載せ、元気づけるようにわしゃわしゃと撫でる彼は、「生誕を祝うのは、別に誕生日じゃなきゃいけないなんて決まりはないんだから」と続けた。

「いつだって祝っていい。いつ伝えてもいいんだ。だから、悠仁、恵が帰ってきたときにちゃんと伝えられるよう準備しときな」
「あ……」

 優しい言葉に、瞠目する。にっと虎杖を元気づけるように笑う五条につられるように、「うん」と表情を和らげる彼は、「五条先生、稽古の続き、おなしゃす!」と立ち上がるのだった。

◇◆◇

 ──一月某日。
 扉の前で、小さなホールケーキを持って立つ虎杖は、深呼吸して逸る鼓動を抑えようとしていた。中途半端な時期だけれど、脳内に響く「いつだって祝っていい」という五条の言葉を信じて、拳を掲げる。コンコンコン、と三度ノックをすれば、数秒後静かに扉が開かれた。

「虎杖? どうし──」

 彼の手にあるケーキを見た伏黒が、目を瞠る。へへ、と苦笑した虎杖は、「遅れちゃったけど、誕生日……おめでとうって伝えたくて」と遠慮がちにホールケーキを掲げた。
 一度口を噤み、「……入れ」と虎杖を促す伏黒は、暖房のきいた室内に彼を招き入れる。
 新宿での死闘を終え、宿儺を倒して、まだ事後処理、復興の途中だが、ある程度高専内には落ち着いた空気が漂っている日のことだった。伏黒が帰ってくることを信じて、時折掃除していただけで、家具も私物もすべてそのままにしておいた部屋。ローテーブルの上にとりあえずケーキを置いた虎杖は、無策で来たことを早々に後悔しつつ、「えーと」と言葉に迷う。
 誕生を祝いたくて、気持ちのままに二人分のホールケーキを作って突撃してしまったが、伏黒も困惑しているだろう。そう思いつつ彼を窺えば、冷蔵庫から飲み物を取り出している伏黒が、「一緒に食って帰るだろ」とこちらを振り向いた。
 目を瞬かせる。「……うん」と頷く虎杖は、「手伝う」とキッチンへと向かった。食器を取り出し、飲み物を注いで、テーブルに戻った彼らは向かい合って腰を下ろす。

「それで?」

 まるで、準備していた間、猶予はやっただろ、と言わんばかりに不審な目を向けられた虎杖は、「遅くなりましたが誕生日おめでとうございました」と頭を下げた。
 潔いまでの言葉に肩を竦めた伏黒が、「今日が誕生日じゃねぇ認識はあるんだな」と呟く。

「流石にあるよ……伏黒の誕生日、……オマエいなかっただろ。祝いたくても、そんな状況じゃなくて……」
「だからって、別にわざわざ後から祝うもんでもないだろ」
「……五条先生が」

 通常やらないことだと自覚していたため、煮え切らない調子で言葉を連ねていた虎杖が五条の名を出せば、ピクリと身動ぎした伏黒が口を噤んだ。目を伏せた虎杖は、「生誕を祝うのは、誕生日じゃなきゃいけないって決まってるわけじゃない、って」と続ける。
 何となく正座していた彼は、ぎゅっと膝の上で拳を握り締めた。顔を上げて、目の前にいる伏黒を見つめる。宿儺の抵抗もあったのか、無理やり引き剥がす形になったことは否めなかったからか、はたまた別の要因か。正確な原因はわからなかったが、彼の顔には両面宿儺の存在を彷彿とさせる傷痕が残っていた。その痕を見る度に、戦いのことを思い出す一方で、伏黒は生きて傍に帰ってきてくれたのだと実感し、彼の存在を噛み締める。

「伏黒が生まれてきてくれて嬉しい。生きててくれてありがとうな。……生きてここにいてくれて、ありがとう」

 ずっと、伝えたかった。出会って、互いを助けるために無茶をし合って、そのとき指を食べたことが良かったのか悪かったのかなんて、今更議論すべきことではない。ただ、出会って、ともに過ごすようになってから、ずっと思っていた。
 出会ってくれてありがとう。伏黒と一緒に生きていけて嬉しい。伏黒が傍にいてくれたから、ずっと寂しくなかったんだ。オマエが、何度も手を伸ばしてくれたから。
 全てを伝えるのは気恥ずかしくて、「本当は、釘崎や先輩たちも呼んで祝おうと思ったんだけど」と話題を逸らす虎杖は、「あんまり大事にしてもあれかなって」と苦笑する。しかしそう口にした直後、「……いや、本当は、俺が祝いたかったから……だな」と本音をこぼした。
 誰よりも、自分が彼の生を祝い、感謝したかったのだ。
 吐露するように一人で喋っていた虎杖は、おずおずと伏黒を窺う。迷惑そうな顔をされても仕方ないと思っていたのだが、黙って虎杖の言葉に耳を傾けていた彼は、微苦笑するように優しく呆れた顔をしていた。

「何言ってんだ。感謝するなら俺の方だろ」
「え……」
「オマエのおかげで生きてるんだから」

 穏やかに言われた虎杖が、「魂引き剥がそうと宿儺殴ってたこと? 俺だけの力じゃないよ」と首を傾げれば、「そうじゃねぇよ」と否定が返ってくる。
 物理的な話ではないのだ、と首を振る伏黒は、今生きて彼の祝いの言葉を素直に受け止められるのは、虎杖のおかげだ、と胸中で繰り返した。
 ──寂しいよ、という私情に塗れた素直な言葉を聞いて、寂しい思いをさせたくないと思った。虎杖が、いてほしいと言うのなら、彼のために傍にいたいと思った。もう生きる意味などない、自分に生きる資格はないと思っていたが、虎杖を笑顔にさせられるなら、そのために彼の隣にいたいと思ったのだ。
 虎杖が当時のやり取りについて覚えているのか否か不明なため、胸の内だけで想いを呟く伏黒は、深く掘り下げることなくテーブルの中心にあるケーキに視線を向ける。

「手作りか」
「うん」

 頷く虎杖は、「滅多に作らねぇから、不格好だけど……あ、一応甘さ控えめにしてっから、食べやすいと思うよ」と照れくさそうに頬を掻いていた。いてもたってもいられなくて、と続ける彼は、「食べる?」と用意していたナイフを手に取る。
 不格好だと言っているが、素人にしては綺麗に塗られた真っ白い生クリームを見つめる伏黒は、昔津美紀が誕生日に手作りしてくれたケーキを思い出した。
 クリスマスとは別なのだと言って、連日ケーキを食すのは、伏黒家での恒例行事になっていて。五条と出会ってからは、誕生日かクリスマスのどちらかはやけに豪華なホールケーキになった。三人では食べきれないのではないかと思っていたら、いつの間にか大半を五条が平らげている。それは、確かに幸せな時間だった。
 当時を思い出し、ふっと笑う伏黒は、「ありがとうな、虎杖」と礼を言う。柔らかで素直な声音に目を瞬かせた虎杖は、「おう」と照れたように笑った。
 んじゃあ、とりあえず半分に切って……とナイフを入れるため身を乗り出す彼の頬に触れる。

「……へ?」

 そのまま、自身も身を乗り出して、虎杖に口付けた伏黒は、かぁぁっと顔を赤くした彼に小さく笑った。
 虎杖の幸せそうな笑顔が見られるだけで、生きていてよかった、と思う。犯した全てを忘れるわけではないけれど、生まれてきてよかったと、そう思うのだ。そう思わせてくれた彼のことが愛しくて、大事だった。その想いを口付けに載せる伏黒は、唐突なキスにドギマギしているらしい虎杖に笑む。
 一方、顔を赤らめている虎杖は、動揺しつつも、嬉しそうな伏黒を見て内心安堵していた。彼の絶望は理解していたけれど、寂しいと自身の感情を訴えてしまっていた虎杖は、伏黒が宿儺を拒絶した際出した答えを知らない。しかし、彼が生きてここにいることが、答えな気がした。少しばかり時期を外れた誕生日ケーキを見て、ほんのりと笑ってくれていることが、何よりの答えな気がした。

「切るから、ちょっかい出してくんのナシな」
「ああ」

 またキスされたら、堪らない気持ちになってナイフを落としてしまうかもしれない。そのため、念押しする虎杖は、返事をしながら隣に移動してきた伏黒をちらちらと目で追う。彼に気を取られていたため、少し歪な形で二等分されたケーキを取り分けた虎杖は、改めて傍に来た伏黒を見た。
 祝われる立場を受け入れたらしい彼に、こてんともたれかかられて、心臓が跳ねる。「プレゼントはねぇのか?」と訊かれた虎杖は、「……ぇ」と一瞬硬直した。
 誕生日プレゼント。祝いたい気持ちだけが先走り、失念していた彼は、まさか伏黒から強請られると思っていなかったため、「ぇえー……と」と曖昧な声を発する。とにかく気持ちを伝えたくて、その気持ちを発散するのも兼ねてケーキを作っていたため、「……ケーキがプレゼントです」と繕うが、半眼を向けられて気まずい虎杖は彼から目を逸らした。
 プレゼント、何か考えていたらよかった、と今更のように思う。うーんうーんと唸っていると、フォークを手にし、ケーキを一欠片口にした伏黒が、「美味い」と感想を述べていた。自由な彼に、「……あの、伏黒さん?」と翻弄されている気分になる虎杖は、彼の本意がどこにあるのか探るように伏黒の顔を覗き込む。
 その瞬間、ちゅ、と口付けてきた彼の唇は、仄かに甘かった。

「プレゼント、このケーキとオマエを貰ったのでもいいか?」
「ケーキはいいとして、俺? 俺貰ってどうする……の……」

 どうしようもなくないか、と言いたかったのに、じっと見つめられた虎杖の語尾が萎む。ハッと、伏黒の強請りが暗喩的なものかもしれないと思った彼は、オマエの身体が欲しいという意味かとたじろいだ。収まりかけていた顔の火照りが再び発生する中、「っ、俺、今日何も準備してない」と言いかけるが、ぎゅっと抱き締められた虎杖は、目を見開く。
 背中と後頭部に手を添えられ、掻き抱くように抱き締められて、「……ふしぐろ」と名前を呼ぶ彼は、あたたかな身体を抱き締め返した。

「誕生日おめでとう」
「……ありがとう」

 くぐもった声が聞こえて、笑う。
 胸の奥にじんわりと広がる幸福感を確かめるようにキスをする彼は、「ケーキ食べよ」と伏黒を促した。
 次はちゃんと、当日に祝うから。
 そう言えば、「その前にオマエの誕生日だろ」と返される。三月二十日、と続ける伏黒が、誕生日を覚えてくれていたと知った虎杖は、「……うん」と何気ないやり取りを噛み締めるように、顔を綻ばせるのだった。畳む

伏虎

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