2024年12月の投稿[1件]
2024年12月31日 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
favoriteいいね ありがとうございます! 2024.12.31 23:24:52 いおりく
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年の始めに、「一織! 見て見て、スケジュール帳買った!」と嬉しそうに手帳を見せてきた陸に対し、「ちゃんと最後まで使えるんですか?」と半眼を向けたことを覚えている。
十二月下旬、特番やら何やら忙しい合間を縫って、年末までに終えられるよう少しずつ掃除を進めていた一織は、リビングのテーブルに置き忘れられている手帳を手に取った。
陸が、デザインが気に入ったと購入していたスケジュール帳。ここ最近、仕事の予定はマネージャーと連携が取れるようスマートフォンのアプリケーションを利用しているため、紙媒体のスケジュール帳は必須ではなくなっている。一織などは、紙の手帳が馴染むため、未だに自身の予定はスケジュール帳に書き込み管理していたが、同じように手帳を購入した陸に対し、ちゃんと使えるのだろうかと心配になった記憶があった。「ちゃんと使うよ!」と主張していたが、三日坊主になるのではと思いつつ、一年。
よく使い込まれているわけではないが、新品同様とも言い難い、軽く使われている形跡のある手帳を手にした一織は、何気なく適当なページを開く。陸の手帳を見ることに然程躊躇いがなかったのは、彼との普段の距離感が近いため、つい、という要素が強かった。
月間の予定表に、仕事の予定が記入されている様子はない。プライベートの予定も入っていなかった。ただ、ハートマークが書き込まれている。数日おきに書かれていたハートが、次第に毎日記入されるようになっており、途中からただのハートだけでなく、大小二つのハートが書かれるようになっていた。
(……何のマークだ……?)
書き込まれている理由として、予定がある日にマークが付けられている、というのが真っ先に浮かぶが、一織が思いつくどの予定とも合わない。
掃除の手を止めて、一人首を傾げていると、扉を開けリビングに入ってきた陸が、「ああ!」と声をあげた。大きな声にびくりと身を竦ませるが、「い、一織! 何勝手に見てるの!?」と手帳を奪われて、勝手に見てしまった罪悪感が生まれる。
「あ……すみません、つい」
「つい!?」
手帳を見られて恥ずかしかったのか、顔を赤くして眉を吊り上げる陸に、「何気なく見てしまいました……すみません」と謝罪を重ねた。むむむ、と反省の色がある一織を見つめた彼は、「……何が書いてあるか、中身見た?」とまだ頬を赤くしたまま尋ねる。
「見ました……けど、ハートマークが書かれていただけでしたよ。ちゃんと使ってはいたんですね」
「う……ちゃんとっていうか……最初は予定書き込んでいこうと思ってたけど、続かなくて……日記……ちょっとした記録に使ってたんだ」
「記録?」
日々つけられていたマーク。何の記録だろうかと疑問を示せば、手帳を開いた陸が、「……した日にマークつけてた」と小さな声で答えた。
肝心な箇所が聞こえなくて、「何をした日ですか?」と問いを重ねると、彼は「一織と、ハグ、した日……」ともう一度答える。静かな寮で、小さく告げられた言葉が届いた一織は、想定外の答えにぎょっと瞠目した。
「……一織と付き合い始めて、ハグした日が嬉しくて、その日にハートマークつけるようになって……でも、ハグってわりと毎日するから、途中で一織とキスした日にハートを二つ書くように変えて……それで……」
ぺら、とページを捲った陸は、十一月のスケジュール表を一織に見せる。きらきらと強調されたハートが書かれている日が、まばらにあった。
ハグやキスをした日として記載されているマークよりも頻度は少ない。陸が、一織との睦み合いについて手帳に残していたと知り、恥ずかしいやら愛しいやら感情が波打っていた一織は、眉根を寄せてそのマークの意味を考える。
そして。
ハグ、キス、ときたらその次に来るのは、という理論的な思考と、日付を見て思い当たる出来事が噛み合った彼は、「っ」と陸に負けず劣らないほど顔を赤くした。
──身体を重ねた日。
「な……んでそんなこと手帳に記録してるんですか!」
「だって……! これだけ一織とえ……ち……して、愛し合ったんだって思い返すと幸せな気持ちになるから……! 別にいいだろ誰にもわかんないただのマークなんだから!」
「ちょっと貸してください」
「あっ」
いつ身体を重ねたのか、残されていると思うと羞恥に顔が火照る一織は、陸の手から手帳をもぎ取る。自分の頭の中で頻度を考えながら毎回行為に及んでいるが、こうして数ヶ月分の記録を見ると、形容し難い感情が湧いた。
それだけの回数、陸を抱いているのだと思うと、胸の奥が甘い熱を持つ。抱かれた回数を数えて、いつ抱かれたのか手帳を見て思い返す陸がいるのだと思うと、堪らない愛しさが湧き上がった。
「……七瀬さん」
「はい」
恥ずかしそうに殊勝な返事をする陸に、手帳を返す。
十二月下旬、今年が終わるまで、まだ少し残っている時期。ハートマークを増やして、スケジュール帳を使ってやるタイミングは、まだ残っているということだ。……それは、自分たち次第だが。
「……スケジュール帳、もう少し使わないと勿体ないでしょう」
「……うん」
「ハートマーク、もう少し増やせるようにしましょう、か」
手帳を持っている手とは反対の手に触れて、陸の小指に自身の指を引っ掛ける一織は、先程の陸と同じくらいの小さな声でそう伝えた。
「……忙しいけど?」
「支障の出ない範囲で」
間髪入れずに答えた彼は、陸から目を逸らす。
仕事に影響が出ないようにするのは当然だが、可愛らしい記録をつけていた陸を愛したい気持ちが増した一織は、普段より語調が強くなってしまったことを自覚し、空咳をして誤魔化した。
珍しい彼に、目を瞬かせる陸が、「……うん」とほんのりはにかむように笑う。
そうして、その夜、早速手帳にハートを一つ付け足すことになった彼らは、「来年も手帳買おうかな」「……好きにしたらいいんじゃないですか」と会話を交わすのだった。畳む